アカペラ・エキスポ その1

「新しいもの」を生み出すのはとても難しい。
なぜ難しいのかと言うと、それは既成概念を壊すことであるからだ。
当然のことながら、既成概念を壊すこと自体が難しい。
しかし、その前提として、既成概念が何であるかを観察者側に提示し、それを観察者に十分理解してもらうことが必要となる。
具体的な例を挙げてみよう。
90センチメートルほどの棒状の道具を持った人間に対し、皮で覆われた直径5センチメートルほどの球を放り投げる。投げられた球があらかじめ決められた範囲内を通過すれば投げた側にとって有利であり、逆にその球が棒状の道具で打ち返された場合には打った側にとって有利になる。
ただし、その球が地面に落下する前に投げた側の人間に取られた場合には投げた側にとって有利となる。
このスポーツ、すなわち野球という競技のことを知らない人間にとって、このような説明は非常に難解でイメージがしにくいであろう。しかし、野球のルールを知っている人間にとっては当たり前の説明であり、むしろ回りくどいものになってしまう。
このように、ある物事についてルールというものがきちんと決まっていると、そのルールを壊す手立てになり得るのである。
例えば、俳句。俳句というのはご存じのとおり、五・七・五という世界で最も短いこの定型詩である。
わずか17文字の中で自然の様々な風景や人の心情を歌わなければならないという難しさがあるが、だからこそ松尾芭蕉は、句と句に二重性の関係を生み出し、静寂と永続性を生み出すことに成功した。
また、能の大家である観阿弥は、芸における型を重視し、能を舞う役者の動きに限定をかけることにより、かえって「型破り」という常識を覆す動きを取り入れることができたのである。
さて、ここにアカペラという音楽分野における既成概念に挑戦したグループがいる。
場所は大阪・関西万博。会場である夢洲は多くの来場者でにぎわっている。
令和7年9月15日、その大阪・関西万博の会場内で「アカペラ・エキスポ」というイベントが開催された。
出演申込がわずか4分程度で終了してしまったこのイベント。
それだけ多くのバンドが出演することになったわけであるが、各バンドに与えられた時間は10分。普通に歌えば、合間に少しMCを入れて2曲くらいしか歌えない時間である。
しかし、この短い時間に5曲も詰め込んだ猛者がいた。名前はぷっちだる。
彼らはどのようにして5曲も歌えたのだろうか。その裏には彼らのどのような思いがあったのだろうか。
今回は、知られざるぷっちだるのタイム・マネジメント理論に迫ってみたい。
(続く)