そして、彼はステージを降りる~よりアイ2016・その2~
琴音は不思議だった。
昔の自分なら、こんな胡散臭い連中のやっていることなど気にも留めなかっただろう。
彼女は、今時の若者には珍しく、どちらかと言えば地味なものを好んだ。
今日の服装も白いカットソーにジーンズという出で立ちだ。
由香にはいつも「もっとお洒落しなよ。」と言われる。
そういう由香はお洒落に敏感で、今日もブルーのワンピースを爽やかに着こなしている。
音楽も地味なものを好んで聞いた。
ロックやパンクといった激しい楽曲よりも、スピッツの方が好きだった。
だからかもしれない。彼女にとってアカペラという音楽は楽しいものだった。
自分の気持ちを素直に声に出せる。
そういう意味でアカペラは彼女の肌に合っていたのだ。
そんな琴音の目の前に、全く異質なアカペラが現存している。
共鳴する奇声、妙に大きな音圧。今まで触れたアカペラとは全く異なっていた。
しかし、だからこそ不思議だった。何だろう。この妙に気になる感覚は。
その黒尽くめの男たちは、自分たちの近況を喋り始めた。
「皆さん、大ニュースです。そうそう、某東京都知事が大変なことになっていてね。
違います。
ではなくて、そうそう。某岸和田出身の有名人が覚せい剤の所持で捕まってね。
はい、これも違います。
ぷっちだるとは一切関係がございません。
実はですね。この間ついにテレビに出演してしまいました!
公費で湯河原まで行って?
ちがうっちゅうねん!
もちろん覚せい剤も所持していません!!
実は先日、毎日放送MBSと、ABCテレビに出演してきました!
とは言っても、それぞれの局が主催するイベントに参加しただけなんですけどね。
電波に乗ったわけではなく、ステージに乗っただけですね。
上手くないですね。
そんなわけで我々ぷっちだるも新しい活躍の場をどんどん広げております。
生き残るのは強い者ではありません。大きい者でもないのです。
変化に対応できた者のみが生き残ることができるのです。
他でもない。ダーウィンの進化論のお話です。
そこで今回は、変化に対応すべく新しい曲をご用意いたしました。
今まで誰もなしえなかったこと。考えていても実行できなかったこと。
今宵、皆さまは全く新しいものをご覧になるでしょう!
お届けいたしますのは、・・・アニソンです。
変化してないやんけ!!
とのご批判もあろうかと思いますが、中身がこれまでと違います。
曲の途中、予期せぬことが起きますので、心の準備をお願いいたします。
お贈りするのは『ベルサイユの薔薇』の主題歌でございます。
ついに少女漫画の世界に足を突っ込んでまいります。
それではお聴きください。『薔薇は美しく散る』!!」
そして琴音は、予想もしなかった事態に巻き込まれるのであった。
(続く)